アセスメント・アトリエ村定期演奏会vol.6(前編)
3月25日、スノードロップそして楽団にとって、大きなイベントのひとつ、アセスメントとアトリエ村定期演奏会を行いました。
アセスメントとは、「評価」や「査定」という意味がありますが、スノードロップでのアセスメントは、怜大くんの身体の成長や機能回復訓練の評価と見直しなどを行うことを言います。 アセスメントのために、岡山にあるNPO法人ハートピーから小野瀬さんと有元さん、そして東京の亜希子さん達が来て、怜大くんの身体の成長、訓練の内容を見てくれます。 前日に訓練の様子などを見てもらい、25日を迎えました。
最初に小野瀬さんからお話があり、 怜大くんがしっかり訓練をできていること、 高校生らしく心も身体も成長していること、 を教えてもらいました。 そして、ただ体重が思うように増えていないことが課題であること。 でも、それくらいですと話してくださいました。
小野瀬さんの言葉を聞いて、緊張した表情だった怜くんママとパパが安心した表情になりました。
怜大くんの今の状態と新しい訓練についてのお話を少し聞いたあと、新しい訓練プログラムの紙が、アセスメントに参加した一人ひとりに配られました。 早速、その訓練メニューをみんなで行っていきました。
前日の評価を踏まえて作っていただいた新しい訓練を今回集まったボランティアメンバーで行っていきます。
この訓練プログラムは怜大くんが2才のときから続けているものです。
怜大くんのように重度の脳性麻痺がある場合、高校生くらいになると背骨の湾曲や変形、股関節の脱臼などがひどくなっていることが多いのですが、怜大くんはみんなと続けてきたこの訓練のお陰で、きれいにまっすぐと伸びた身体、脱臼のないしっかりとした身体に成長しました。
それでも、固くなってしまっているところや、緊張が強い場所などはあります。今までの訓練を見直し、伸ばしたいところに重点を置いたプログラム、本人も意欲の出てくるよう少し負荷を加えた内容になっていました。
最初にセラピストの亜希子さんと有元あゆちゃんにお手本を見せてもらい、そのあとはボランティアメンバーが交代で実際に行い、プログラムを一つずつ確認していきます。同時に、それぞれがメモをしたり、ビデオや写真で記録したり、正しく訓練を行えるようにサポートの仕方を確認していきました。怜くんが痛がったり、サポートしづらかったりなどが分かれば、小野瀬さんの指導のもと、その場で修正していきます。
怜くんはみんなに見られて、やる気いっぱいでした。痛かったり不安だったりだと思うのですが、前向きに訓練に取り組んでいました。 高校生のたくましさが、頼もしいなと感じました。
最近のスノードロップ楽団の活動は、月に1度の演奏会が当たり前のことになってきています。
多いときは4回以上演奏会の依頼を受けることもあります。
その過程で、怜くんも私たちも表現する場が増え、気持ちの幅が広がっているのかなと思います。怜くんはたくさんの演奏会やスノードロップの活動を通して、自分がしっかりしてきて、高校生らしい強くて前向きな気持ちが作られてきているのだと思いました。
全部を通す45分以上ある訓練メニューを日々、継続して続けることは怜大くん本人にとっても、サポートする側にとっても大変なことです。 家族だけでは、とても続けられないことです。
そこに、この訓練の大切な部分が含まれています。
自分たちで抱え込まずに、周りの人たち、地域の人たちに上手に助けてもらって、訓練を続けていく。
助けてもらいながら、地域に溶け込んでいく。
怜くんの居場所を作っていく。
ボランティアさんを募ることには大切な意味があります。
小さいころから怜くんのことを知ってくれている人がたくさんいるというのは、大きくなって、介助の手がいよいよ回らなくなった時に助けを求めるのとは、大きな違いがあります。
小さいときから家族のように知っている怜くんの力になりたい。周りが自然と怜くんの応援団になってくれます。 そういうメンバーが集まるからか、アセスメントに参加したみんなの表情は真剣でしたが、和やかな雰囲気のなか進んでいきました。
一通り、訓練をみんなで行ったあとに、小野瀬さんと有元さんからのお話がありました。 怜くんの身体のこと、スノードロップの活動のこと、障害のある子供の生き方、その子たちの持つ人間味など……。
普段、言葉にしないままに過ごしていると、何のために演奏会を行ったり、スノードロップの活動をしたりしているのかを意識しないまま、イベントだけがただ過ぎ去っていってしまいます。
でも、今回のアセスメントを通して、言葉にしてもらうことで、改めて自分たちの活動の意味に気づくことができました。
今回のお話の中で、私が一番印象に残った言葉は、「人間味」という言葉でした。 人間味は、本来、人間の持っている一番良い部分です。 喜びや悲しみ、自分の気持ちを素直に豊かに表現する。狡さや意地悪さが無い。損得を考えずに、思いやり、ぬくもりと優しさを持って人と接する。
私たちは、普段の生活のなかで、気づかないうちに意地悪をしたり、自分をよく見せようと意地を張ったり、自分が得をしないと負けてしまうんじゃないかと、焦りを感じてしまっているのだと、話を聞いて、思いました。
そして、競争と意地悪、嫉妬ややっかみなどの感情にさらされて、人間味を見失いやすくなっています。
生きづらいけれど、何が答えなのかが分からない。
幸せだと思って、人より良い位置、安定を追い求めていても、何故かとても虚しい。
表面上は仲良く接していても、肝心なところで気を許せない、競争心が働いて、協力すると損だと思ってしまう。
そういう風潮の中では、人は生きづらくなってまうのだと、小野瀬さんと有元さんは教えてくださいます。
そういうとき、怜くんと接すると、辛さを抱えた人はほっとします。 それは、怜くんの持つ人間味にたくさん触れることができるからです。私は、楽団の練習に行ったとき、怜くんがニコッと笑ってくれると、つられて笑顔になります。ほっとして、元気が湧いてきます。
自分でうまく動いたり、話したりできなくても、怜くんは私たちに伝えてくれています。人間の本来の生きる意味や何を幸せとするかを。 もし、怜くんや障害を持った子供たちが意地悪な気持ちやずるさを持ってしまったら、そんな性格ではストレスで胃に穴が開いて死んでしまうそうです。障害のある子は、よほど優しく、寛容じゃないと生きられないのです。 その人間味を、怜くんはたくさんの人に分けてくれています。
「怜くんの優しさや人間味を地域に分けて、広げていくこと、
それを大きな夢にしてほしい」
と、小野瀬さんは話してくださいました。
そして話の終盤、
「スノードロップのみなさんは利害の無い本当の気持ちで繋がっている。現実的に怜くんはすごく良い身体をしている。このあとの演奏会がすごく楽しみ」
だと、話してくださいました。
本当に楽しみにしてくださっていることが分かり、そのぶん、緊張しましたが、演奏できることが嬉しいなと思いました。
小野瀬さんと有元さんのお話のあとに、お弁当をみんなでいただきました。そのときの自己紹介で、今日のアセスメントを通して気づいたことなどを話していきました。 どういう気持ちでみんなスノードロップや楽団に関わっているのか、そして、スノードロップと繋がるようになったきっかけを知りました。 お子さんが怜くんと同級生で、そのときからずっと関わっている人、楽団から参加した人、怜くんパパと会社が同じで関わるようになった人。それぞれの背景は様々です。 様々な背景で繋がったメンバーだけど、みんな同じ気持ちで繋がっている仲間なんだなと思いました。みんなのスノードロップに関わる気持ちを知ることができてうれしい気持ちになりました。 アセスメントを終えて、私はとても安心していました。
(午後の定期演奏会の記事につづく)